狂言回し男に沼りがち(ミュージカル『生きる』)

『生きる』観劇@新国立劇場中劇場

9月12日マチネ


Wキャストは渡辺勘治役市村正親さん、小説家役上原理生さん。舞台上の鹿賀丈史を一度生で観ておきたい気持ちはあったけど理生さんに合わせた。

取り急ぎの感想が「上原理生の生脛」しか出てこなくて本当に困った。別に男の脛を観に行ったんじゃないのに。でもあれは仕方ない……目を奪われる生脛……

着物の下半身の無防備さ、あれ嫌いなオタクおらん。上は帽子にストールに羽織でもこもこ(髪と髭ももこもこ!!)なのに裾からちらちら覗く肌色に気を取られまくっていた。黒のショートブーツありがとう。本当にごめん渡辺。ちゃんと渡辺のことも見てたよ。


理生さんの演じる好色な兄貴肌、好きだな〜……………………………

アンジョルラスで好きになった役者さんだし今はジャベールだし、禁欲的で使命に生きるひたむきな男は言うまでもなくはまる、大好き、でも容貌が派手だから華やかなモテ男が似合うこと似合うこと……知ってた!サイゴンのジョンもDreamlandの「女奢るぜ!」がいっちゃん好きやし……年下のクリスに「ビール奢れよ💢」って窘められてんのが愛しすぎるので。ご本人が大真面目さんだからちょいインモラルなモテ男を演じるのを楽しんでるかんじもするし、そこも好きなのかもしれん。


小説家は好色というか、失うものが何もない故の身軽さと言った方がしっくりくるかな。コミカルな表情と身振り手振りで狂言回しにぴったりの役どころだったな、ルキーニと同じような俯瞰視点を持ってるけど、ルキーニほど人生に絶望してはいない。人間に期待することができる。理生さんのあの手のお芝居は新鮮でめちゃくちゃ最高だった……理生さんルキーニやらん?

(とはいえご本人が大真面目さんだから(二回目)物語の外にいる役柄でも演技に遊びがない、そこもね、好きなんだよなあ……アドリブとかやらないんだろうなあの人、好きだなあ……アンジョルラスみ……)

仕事はほどほど(過去に夢に破れた経験があるはず)、酒と女を嗜み機転が利いて裏社会にも顔がきく、人情に厚い色男、好きにならんわけがなく。このためにホリに課金して先行抽選参加したけど大正解引いたな♪♪♪かなり下手寄りだったけど9列、下手で客振りお喋りしてる小説家と絶対目合ったもんね!絶対絶対ファンサもらったもんね!アァ〜〜〜理生さん見る度マジでガチで好き。これからも元気にたくさんの舞台を踏んでその爆裂声量を轟かせてほしい。追いかけます。MA再演あったらまたオルレアンやってね!


ずっと理生さんの話しちゃった……作品の話。

制作発表会で歌を聴いた時にも思ったけど、音楽が粒ぞろいで素晴らしい。和製ミュージカルって言葉を優先するあまり音がついてこないというか、歌メロがぼんやりしちゃって聞きづらい印象がある。キャッチーになりきれないかんじ。日本語は歌うための言語じゃないから仕方ないと思うのだけど、『生きる』は音楽がとってもね〜よかった!特にとよちゃんのあだ名の歌が頭から離れない……ナマコ!

小説家が導くように歌う「人生の主になれ」は渡辺の心に響かなかったけど、誰を上とも下とも思わないとよちゃんとなら、きっと同じ目線で世界を眺めて無邪気に楽しむことができたんだろうな。


オープニングナンバーが名もなき人々の合唱で始まるのもね、これ好きなやつ!となりました。レミゼなら「一日の終わり」、エリザなら「ミルク」、ジキハイなら「嘘の仮面」が最推しナンバーな私なのでそりゃそう。役名を与えられなかった民衆の叫びが結局一番刺さる。これはあなたの物語なんだ、と言われているようで。


あと一幕ラストの「二度目の誕生日」、圧巻。「いるのかいないのかわからない」とまで同僚に言われてた渡辺課長、前半の抑えた演技はここで爆発するためにあったんだと嫌でも理解させられた。市村正親〜!!言うまでもなく最高のおやじ!!

ここに至るまでの演技も本当に巧みでたまげた……これまではエネルギッシュラブアンドピースおじさん市村正親を見てきたから、冒頭からのヨボヨボすぎる渡辺に衝撃を受けたというか、なんかショックだったもんな……老いと死の影をものすごく意識してしまった。正親はまだ300年はそっち行かないでしょ〜!



奥行のある舞台を目いっぱい使った公園のセットもめちゃ良かったな、あれは縦長の新国立じゃないとできないんだろうな。

雪の日の公園、ひとりぶらんこを漕ぐ渡辺、幕の後ろに用意されてるだろうことは予想できてたのに、それでもあまりの美しさに涙が出た。想像の遙か上をいく演出、お見事でした亜門さん……


あとは役所のおじさんたちが足で一生懸命床蹴ってデスクごと舞台上を滑りまくってたのがオモロかったとか、二階建ての自宅のセットの造りが凝ってて興味深かったとか、かな〜。殴るアクションをする時はしっかり音出さないと演技がちゃちく見えるなあというのは再確認。

今までになくたくさんのおじさんが登場する作品だったけど、中でも好きなおじさんは病院で杖ついてるおじさんです。あんまり渡辺を怯えさすな。



しかしとよちゃんの命の輝きに魅せられたからとはいえ職場の若い子に付き纏っちゃう渡辺、市村版はただただ哀れで目を背けたくなったな……あんなにも死臭のする市村正親……何をどうやったらあの落差を作れるの。観終わってもわかんないよ。

黒澤映画版は結局観なかったんですが、渡辺が相当なキショさだと聞いています。そんなん見たくないよ……だってビル・ナイ版は哀れだけどその悲哀を着こなしてて、それはそれで素敵なおじさまだったんだよ……日本のおじも素敵な歳の取り方をしてほしい。何の話?やっぱり市村正親は最高のおやじ。